平成12年6月30日
大 学 審 議 会
会 長 鳥 居 泰 彦 殿
大学設置基準等における「授業の方法」と「卒業の要件」の考え方、並びに「通学制」と「通信制」の関係について(意見)
財団法人 私立大学通信教育協会
大学審議会は、平成9年12月18日の「『遠隔授業』の大学設置基準における取扱い等について(答申)」において、通学制の高等教育機関における「遠隔授業」(設置基準では「メディアを利用して行う授業」)の位置付け、並びに通信制の高等教育機関における授業の方法等の考え方の見直しを提言し、これに基づき、平成10年3月31日に大学設置基準等の改正が行われた。
しかし、その後の情報通信技術(ICT)の発達は著しく、とりわけインターネットを活用した教育方法は対面教育を基本とする従来の教育観に大転換をもたらしつつある。
こうした状況から、大学設置基準等における「授業の方法」、とりわけ「メディアを利用して行う授業」の要件や「卒業の要件」の考え方、並びに「通学制」と「通信制」の関係等について再検討する必要が生じていると認識する。また、貴審議会においても、基本問題検討部会においてこの問題を審議しているように仄聞している。
本意見書は、こうした一連の状況変化を踏まえつつ、大学通信教育の立場から現時点での最善と思われる対応策を提起したものである。しかし、それは単に大学通信教育の立場に固執するものではなく、大学教育全体の見地から考察したものであることはいうまでもない。
本意見書が、貴審議会における今後の審議の一助となれば幸いである。
1.「授業の方法」と「卒業の要件」の考え方(現行規定の確認)
大学における「授業の方法」は、大学設置基準第25条および大学通信教育設置基準第3条で、「面接授業」、「メディアを利用して行う授業」、「放送授業」、「印刷教材等による授業」の4つの方法が規定され、「通学制」(大学設置基準による)においては「面接授業」と「メディアを利用して行う授業」の2つが、一方「通信制」(大学通信教育設置基準による)においては4つのすべてが実施できることになっている。
また、「卒業の要件」は、「通学制」においては「メディアを利用して行う授業」によって修得できる単位数は124単位のうち60単位までとなっている(大学設置基準第32条第4項)。一方、「通信制」においては、124単位のうち30単位以上は「面接授業」によって修得することと、当該30単位のうち10単位までは「放送授業」または「メディアを利用して行う授業」によって修得した単位で代えることができるとされている(大学通信教育設置基準第6条第2項)(表1[省略])。
2.現行規定の問題点とその改正案
(1)「メディアを利用して行う授業」の要件について
現行の「メディアを利用して行う授業」は、大学が「面接授業」に相当する教育効果を有すると認めたものであり、「面接授業」に近い環境で行われることを前提にしている。そのため、同時・双方向、かつ教室、研究室又はこれらに準ずる場所で履修させる「テレビ会議式の遠隔授業」が唯一それに該当するものとなっている(「大学設置基準第25条第2項の規定に基づき、大学が履修させることができる授業を定める件(平成10年3月31日文部省告示第46号)」および「大学設置基準等の一部を改正する省令の施行等について(平成10年3月31日文高大第306号文部事務次官通知)」による)。
しかし、情報通信技術(ICT)の発達は著しく、とりわけインターネットを活用した教育方法は対面教育を基本とする従来の教育観に大転換をもたらしつつある。具体的には、同時・双方向で行われる「テレビ会議式の遠隔授業」だけでなく、録画した授業に講義ノートやグラフィック、各種情報へのリンクなどを編集・加工してホームページに掲載することで、出席できなかった学生が後になって受講することも、また出席した学生が再受講することで理解を深めることも可能となる。また、電子メールやML(メーリングリスト)、BBS(電子掲示板)などを複合的に利用することで「双方向性」を確保することも十分に可能である。こうした授業の方法をここでは「オンデマンド授業」という。
「メディアを利用して行う授業」を「テレビ会議式の遠隔授業」に限定せず、「オンデマンド授業」もこれに含めることが望ましく、「通学制」のみならず「通信制」においてもこれを広く活用することで質の向上が期待される。
そこで、「オンデマンド授業」をも「メディアを利用して行う授業」に位置づけるため、「メディアを利用して行う授業」の要件から「同時性」および「履修する場所」に関する要件を外し、「通学制」においてもこうした授業を自宅等で非同期的に受講することを認めることを提案する。しかし、「オンデマンド授業」においては、双方向の通信手段を複合的に利用して教員と学生および学生同士のコミュニケーションを図るよう配慮するとともに、ティーチング・アシスタントの配置や受講(出欠)の確認を義務づけるなど、「通信制」における「放送授業」とは異なる授業の方法として位置づける必要がある。
また、社会人を対象とする教育においては、映像・音声(教員の講義)の配信によらず、文字情報を主として配信することで効果的な学習環境を実現することも十分に可能だと思われる。しかし、「通学制」の大学においては、少子化に伴う全入時代の到来と学力の低下が懸念される中で、むしろ直接の対面による授業(指導)の重要性が増すものと思われる。そうした観点から、「オンデマンド授業」については映像・音声(教員の講義)の配信を主とすることを要件とすべきである。一方、平成10年の改正で、「通信制」における「印刷教材等による授業」には「CD-ROMなどの電子出版」も該当することが示されたが、文字情報の配信をCD-ROM等のパッケージ型メディアに限定する必要はなく、これをインターネット等で配信する方法も「印刷教材等による授業」に位置づけることが適当であると考える。
以上の考え方を整理すると、表2のようになる。
表2「メディアを利用して行う授業」の要件(現行と改正案)[省略]
(2)「卒業の要件」について
「通信制」においては、「面接授業」によって修得すべき30単位のうち10単位までを「放送授業」または「メディアを利用して行う授業」によって修得した単位で代替できるものとなっているが、「面接授業」の卒業要件(30単位)以外の単位はいかなる授業方法で修得してもかまわないはずである。ところが、「メディアを利用して行う授業」は「面接授業」と同様に通学型の授業形態であり、通信制の主たる授業方法としては想定されておらず、そもそも通学に困難を伴う学生のための通信制の大学で多くの授業をこの方法で修得することは非現実的であるという考え方も一部に示されており、実際には、124単位中の10単位までしか認められないことになっている(大学審議会「『遠隔授業』の大学設置基準における取扱い等について(答申)」平成9年12月18日、p.15、および『大学資料』No.138、平成10年6月、p.14)。
しかし、「オンデマンド授業」を「メディアを利用して行う授業」に位置づけることで、自宅等での受講が可能となることから、「通信制」においてもこの授業方法によって多くの単位を修得することが矛盾なく認められるはずである。さらに、社会人を主たる対象とする「通信制」においては、「面接授業」の卒業要件である30単位のすべてを「オンデマンド授業」を含む「メディアを利用して行う授業」によって代替できるようにするとともに、「メディアを利用して行う授業」によって124単位すべてを修得することも認めることを明確にする必要があると考える。
一方、「通学制」においても、「テレビ会議式の遠隔授業」は同時・双方向かつ教室等で履修することが求められることから、「面接授業に相当する教育効果」を有するものとして「面接授業」の卒業要件をすべて代替することを認めてよいという意見もあろう。しかし、社会人を主たる対象とする「通信制」とは異なり、「通学制」においては、「メディアを利用して行う授業」によって修得することのできる単位数は従来どおり124単位のうち60単位までとすることが適当であろう。
(3)「通学制」と「通信制」の関係について
「メディアを利用して行う授業」を自宅等で履修することを認めることで、「通学制」と「通信制」の区分に風穴を開けることになる。そして、将来的には、情報通信技術(ICT)の発達によって授業の方法がさらに多様化し、「通学制」と「通信制」の区分を維持することが困難になることが予想される。
しかし、通信教育を行う多くの大学においては、「印刷教材等による授業」(現実には「印刷教材による授業」)が圧倒的にその主たる授業方法であり、放送大学においても非同期・一方向の「放送授業」が行われている現状では、「通学制」と「通信制」の区分を一気に解消することは望ましくないと考える。また、設置基準上も2つの制度が併存し、それぞれ別個の設置認可が行われ、収容定員が定められていることから、「授業の方法」という観点からのみその区分の可否を議論するべきではない。
以上のことから、「通学制」と「通信制」の区分は今後も段階的に見直すことが必要であるが、現時点では制度上これを維持する必要があると考える。
これまで述べた考え方に基づいて大学設置基準等における「授業の方法」と「卒業の要件」の在り方を整理したものが表3である。
表3「授業の方法」と「卒業の要件」の考え方(改正後)[省略]
3.大学設置基準等の改正について(案)
上記で指摘したことを踏まえると、大学設置基準等について、次のような改正を行う必要がある。
(1)「メディアを利用して行う授業」の要件(「大学設置基準第25条第2項の規定に基づき、大学が履修させることができる授業を定める件(平成10年文部省告示第46号)」、「短期大学設置基準第11条第2項の規定に基づき、短期大学が履修させることができる授業を定める件(平成10年文部省告示第44号)」、「高等専門学校設置基準第17条の2の規定に基づき、高等専門学校が履修させることができる授業を定める件(平成10年文部省告示第45号)」)について、次のような改正を行うこと。
@同期(時)性および履修場所の制限に関する要件を削除する。
A映像・音声(教員の講義)の配信を主とするものであることを明記する。
Bメール、ML(メーリングリスト)、BBS(電子掲示板)などの通信手段を複合的に利用して、教員と学生のみならず学生同士のコミュニケーションを図るよう配慮する必要があることを明記する。
C同時に行われない場合でも、ティーチング・アシスタントの配置や受講(出欠)の確認ができるような工夫をすることを明記する。
(2)「大学通信教育設置基準」第6条第2項(卒業の要件)を次のように改めること。
「前項の規定により卒業の要件として修得すべき単位数124単位のうち30単位以上は、面接授業により修得するものとする。ただし、当該30単位のうち10単位までは放送授業により、また30単位のすべてをメディアを利用して行う授業により修得した単位で代えることができる。」
また、「メディアを利用して行う授業」によって124単位のすべてを修得することも認めることを通知等において明確にすること。
(3)「短期大学通信教育設置基準」第6条第2項(卒業の要件)を次のように改めること。
「前項の規定により卒業の要件として修得すべき単位について、修業年限2年の短期大学にあっては15単位以上、修業年限3年の短期大学にあっては23単位以上(短期大学設置基準第19条の規定により卒業の要件として62単位以上を修得することとする短期大学にあっては15単位以上)は、面接授業により修得するものとする。ただし、当該15単位又は23単位のうちそれぞれ5単位又は8単位までは放送授業により、また15単位又は23単位のすべてをメディアを利用して行う授業により修得した単位で代えることができる。」
また、「メディアを利用して行う授業」によって62単位(修業年限が3年の短期大学にあっては93単位)のすべてを修得することも認めることを通知等において明確にすること。
以 上
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